夏のバスプール 畑野智美
夏のバスプール 畑野智美
高校一年生の涼太は、同じ高校の制服を着た見知らぬ女子にトマトを投げつけられる。
その女子・久野ちゃんのことを涼太は気になり始めるが、久野ちゃんには、涼太にトマトを投げつけた複雑な理由があった。
涼太は、元カノのじっとりした視線や、久野ちゃんを想う因縁の西澤、親友・青野の恋愛模様、富君の言葉に悩まされながらも、今年で終わるらしい世界を生きている。
青春は、乾いた夏を爽やかに駆け抜けるだけじゃない。
じめっとした蒸し暑い夏を、もがきながら歩き続けることだってある。
関わる人皆の、感情が、想いが、複雑に絡まった先で、もしそれが解けたなら、
君と五時間目が終わるチャイムを聞こう。
この小説は、まさに青春だと感じるのですが、それは夕日の沈みゆく海を走るとか、
部活に一分一秒を注ぐとか、そういう爽やかで熱くで勢いのある部分ではなくて、
誰にでもあったような中高生だからこその人間関係の絡まり、悩み、重みが
主人公たちの真っ直ぐな思いを強調させて、それがあの頃の青春となって心に染みてくる。そんな感じかなと思います。
畑野さんは、そういう暗い部分、重い部分の感情を描いて、明るい部分、軽快な部分を際立たせることが上手な方だなって思います。
私が特にこの小説を好きな理由は、
涼太の変化ですかね。気になってる久野ちゃんよりも小さい(多分)身長で、顔は女の子っぽい。人にはあまり関わらない興味も持たない。
そんな冷めた涼太が、久野ちゃんをきっかけに、人と深く向き合っていく中で、
自分自身とも向き合う、そんな姿が眩しかったです。
是非、読んでみてください。
青色夏空。